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大阪高等裁判所 昭和40年(く)83号 決定 1965年10月13日

本人 B・J(昭二〇・一〇・一生)

主文

原決定を取消す。

本件を和歌山家庭裁判所新宮支部に差し戻す。

理由

本件抗告申立の趣意は申立人両名連名作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用するところ、要するに原決定は処分の著しい不当があるから取消されたいというのである。

よつて本件保護事件記録および少年調査記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して次のとおり判断する。

原決定は本件保護事件についてその別紙第一の(一)虞犯事実(二)詐欺の事実につき少年(現在二〇年をこえているが、B・Jを以下少年という。)を中等少年院に送致する旨の言渡をするとともに原決定別紙第二の(一)詐欺(無銭飲食)(二)暴力行為等処罰に関する法律違反(共同暴行、脅迫)、(三)傷害、(四)傷害及び暴行の各事実につき少年法二三条二項により少年を保護処分に付さない旨の言渡をしたが、原決定がその別紙第二の各非行事実について不処分決定を言渡した理由は原決定自体では必ずしも明確でないが記録中の各証拠によればいずれも犯罪の嫌疑がなかつたためであると認められる。

ところで、本件保護処分の前提となつた原決定別紙第一の非行事実は

(一)  少年は左官という定職を有しながら真面目に稼動せず、暴力団員等の犯罪性のある者と交際して保護者の正当な監督に服せずその性格又は環境に照らして将来罪を犯す虞があるという少年法三条一号、三号に該当するぐ犯事実

(二)  昭和四〇年四月○日午後一一時頃A外二名と共謀のうえバーでビール八本等合計三、六〇〇円相当の飲食物を無銭飲食をしたという詐欺にかかる事実

であつて、少年は右(一)(二)の非行事実のほか、原決定別紙第二の(一)(二)の各非行事実について原裁判所で審判中昭和四〇年五月七日試験観察処分の決定を受け、同家庭裁判所調査官の観察に付せられていたが、右観察期間中原決定別紙第二の(三)(四)の各傷害および暴行の非行事実があつたとして逮捕され、右事実についても原裁判所の審判に付せられるに至つたものである。そして、右各傷害及び暴行の非行事実は少年が那智勝浦町のバー「アロー」でA、Cと共に飲食していた際右両名が酒に酔つた挙句向いのバー「○ロ」のバーテン杉○一外二名に対し下駄等で殴打し又は蹴つたりして暴行し、右被害者のうち二名に各全治一週間の傷害を負わせたが、少年は現場に居たが、手出しをせず、Aらとの共謀関係も認め難いため、前記の如く犯罪の嫌疑なしとされたものであるが、右のように素行不良の友人と交際し深夜酒場に出入していた点は試験観察中の少年の行動として不謹慎であるばかりでなく、従来少年が左官職を怠け暴力団組員と交際し、無断で外泊したり、パチンコ店や酒場等に出入し保護者の監督に服さなかつた行動に照らし尚虞犯性が現存するものとみられるから、この点を重視し、鑑別結果にみられる資質上の問題点や両親が共働きで充分少年を監督できない保護環境等の事情を考えると、少年に要保護性があることは疑いがない。しかしながら、前記無銭飲食の非行事実は軽微な事犯で間もなく共犯者と共に弁償しているのみならず、虞犯事実についても試験観察中は左官職として再就職し、病気のため数日休んだようであるが、暴力団組員ら不良交友を避けていたところ、たまたま前記傷害事件当日Aらに誘われともにバーで飲食したため同事件の疑をかけられるに至つたもので、少年の非行性が左程根強いものとは認め難く、更に当審の事実の取調の結果によれば少年の父は自己の監督の至らなかつたことを深く反省し、少年の将来を心配して自己の弟B・Tと相談し、少年を同人方に預けて保護環境を変えて少年を善導する旨誓つており、右石橋童児も少年を引取つて左官職として就職させ監督指導をしたい旨誓つており、少年の保護者及び近親者において少年の補導について熱意が充分認められるので、これらの諸事情も併せて考慮すると、少年を保護者及び近親者の監護に委ねるのが相当で、少年を前記非行事実によつて中等少年院に送致した原決定は処分の著しい不当があるものというべきである(少年は現在二〇年をこえ、従つて原決定を取消すにおいては少年法の保護処分の対象とならないけれども、そのことによつて原決定を是認できないことは論をまたない。)。

よつて本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項により原決定を取消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠山成伸 裁判官 松浦秀寿 裁判官 八木直道)

参考

原審決定(和歌山家裁新宮支部 昭四〇(少)四九号、六一号、一〇七号 昭四〇・七・一六決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

別紙第二記載の事実については少年を保護処分に付さない。

理由

一 事実

少年院に送致した事実、別紙第一記載のとおり。

保護処分に付さない事実、別紙第二記載のとおり。

二 法令の適用

少年法第三条第一項第三号、刑法第二四六条第一項、第六〇条

少年法第二四条第一項第三号

同法第二三条第二項

三 別紙第一記載の事実につき、少年を中等少年院に送致した理由

少年にかかる少年調査票、和歌山少年鑑別所鑑別結果通知書を併せ考えると、少年の健全な育成を期するためには、少年の性格と環境に鑑み、少年院における矯正教育を施すのが相当と思料されるので主文のとおり決定する。

(別紙第一)

(一) 少年は左官という定職を持ちながら真面目に稼動せず、暴力団員等の犯罪性のある者と交際して保護者の正当な監督に服せず、その性格又は環境に照して将来罪を犯す虞れがある。

(二) 少年はA、D、Eと共謀の上、昭和四〇年四月○日午後一一時頃、和歌山県東牟婁郡○○○○町○○×××番地バー「○げ○ま」こと○根○子方において、僅少の所持金しかなく代金支払の意思及び能力がないのに、これある如く装い、同女に対しビールなどを注文し、同女をして代金支払を受け得られるものと誤信させ、同女からビール八本、具一皿、イチゴ一皿、合計金三、六〇〇円相当のものを提供させ、もつてこれを騙取した。

(別紙第二)

少年は

(一) 友人のE、A外数名と共に、昭和四〇年四月△日午前〇時二〇分頃、和歌山県東牟婁郡○○○○町△△○丁目○の○番地飲食店「○女」こと○上○代方において、所持金もなく又代金支払の能力もないのにこれあるように装い、同女に対し、酒等を注文し、同女をして代金支払いを受けられるものと誤信せしめ、よつて同女から酒三本ビール二本、おでん一個、お好焼一個計九二〇円相当のものを提供させ、もつてこれを騙取し、

(二) 同年同月同日午前一時三〇分頃、前記「○女」こと○上○代方において、友人のA等と飲食をし、同女からそれまでに飲食した代金の即時支払方を要求されたことに立腹し、同行のA、D等と共同し同女に対し「お前は生意気や、店出来んようにつぶしたろか」等申向けて脅迫の上、同女の左足を一回けり上げ更に右手を同女の顔面を殴打する等の暴行を加え、

(三) C、Aと共謀の上、昭和四〇年六月○日午後一〇時三〇分頃、和歌山県東牟婁郡○○○○町バー「○ロー」こと○道○作方店内において、かつて少年らが親友のある暴力団○○会系○○組と対立関係のある△△組経営のバー「○ロ」のバーテン杉○一(一八才)に「一寸来い」と因縁をつけた上ビールをかけ、ビール瓶で同人の頭部を殴打する等の暴行を加え、外に逃れ出た同人に対し「○ロー」前路上において下駄等で前後数回けり上げ、よつて同人に対し治療一週間を要する右後頭部並びに左胸部、左腿部打撲傷の傷害を与え、

(四) C、Aと共謀の上、前記(三)記載の日時場所において仲裁に入つたバー「○ロ」のマダム○森○○代及び芸妓小町こと○藤○子に対し下駄等で殴打する等の暴行を加え、○藤○子に対し前額部挫創による全治一週間を要する傷害を与え

たものである。

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